「生成AIの導入を任されたけれど、何から手をつければいいのか分からない」。予算も人手も限られる小さな市町村の担当者ほど、この迷いは深くなります。
この記事では、AIを自治体で活かせる業務と先行事例、使う前に決めたい庁内ルール、小さく始める導入の手順を解説します。
大きな予算をかけずに、自分のまちに合った始め方を庁内で提案したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
AIの自治体での活用が進む理由

「なぜ今、自治体でAIなのか」と庁内で聞かれたら、理由は次の2つです。
- 職員が減るなかで、業務が減っていない
- 生成AIが、誰でも使える水準になった
国も、自治体DX(デジタル技術で行政サービスや仕事の進め方を変えること)を後押ししています。
総務省の「自治体DX推進計画」第4.0版(2025年3月28日)は、重点取組事項の1つに「自治体のAI・RPAの利用推進」を挙げました。RPAは、パソコンの定型作業を自動で行うソフトです。
職員不足と業務量の増加
自治体の職員は、この30年で大きく減りました。地方公務員の総数は1994年の約328万人がピークで、2024年は約281万人です。
年 地方公務員の総数 1994年(ピーク) 約328万人 2024年 約281万人 差 約47万人の減少
出典:総務省「地方公共団体定員管理調査」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000981327.pdf
ピーク時と比べると、およそ7人に1人分の職員が減った計算です。
一方で、仕事の量は変わらないまま。住民の要望は多様になり、1件ごとの対応に時間がかかるようになりました。
人を増やせないなら、人がやらなくてよい作業を機械に任せるしかありません。自治体でAIへの期待が高まる理由はここにあります。
生成AIが実用レベルになった
2022年11月にChatGPTが公開され、AIは専門家だけの道具ではなくなりました。文章で指示するだけで、次のような作業をこなせます。
- 文書の下書きを作る
- 長い資料を要約する
- 硬い通知文を、やさしい表現に書き換える
- 企画のアイデアを書き出す
以前のAIは、用途ごとに専用のシステムを作る必要がありました。今は1つの道具で、幅広い事務作業を手伝わせられます。
自治体での導入も、この数年で一気に広がりました。2024年12月末時点で、生成AIを導入済みの団体の割合は次のとおりです。
区分 生成AIを導入済み 都道府県 87.2% 指定都市 90.0% その他の市区町村 29.9%
出典:総務省の令和6年度「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」(2025年6月公表)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu06_02000454.html
都道府県と指定都市(政令で指定された大きな市)はほぼ導入を終え、その他の市区町村は3割ほどです。
ただし実証中・導入予定まで含めると、その他の市区町村も約51%に上り、半数がすでに動き出しています。
令和7年度の同調査(2026年4月24日公表)では、生成AIに限らないAI全般の導入済み割合が、都道府県98%、指定都市100%、その他の市区町村62%でした。
『デジタル・マーケティング超入門』の著者が
「Web集客の仕組み」で売上を創ります
自治体でAIを活用できる業務の例

「うちの課でもAIは使えるのか」と迷う方は多いでしょう。AIが成果を出しやすいのは、量が多く、手順が決まった業務です。
主な領域は以下のとおりです。
領域 使うAI できること 住民からの問い合わせ AIチャットボット 24時間・多言語で定型の質問に答える 文書作成・要約 生成AI 広報文や通知文の下書き、議事録の要約 紙の申請書の処理 AI-OCR・RPA 手書き書類のデータ化と入力の自動化 データ分析 分析ツール・AI 人口や交通の傾向をつかみ、政策に活かす
①住民からの問い合わせ対応
AIチャットボットは、住民の質問に自動で答える仕組みです。自治体のサイトに置くと、次の効果が見込めます。
- 夜間や休日も24時間対応できる
- 英語や中国語など、多言語で答えられる
- ごみの出し方や証明書の取り方など、同じ質問の電話が減る
職員は、AIでは答えにくい個別の相談に時間を回せます。
回答の質は、元になるFAQ(よくある質問集)の整え方で大きく変わります。導入前に、庁内の問い合わせ記録を整理しておきましょう。
②文書作成・議事録・要約
生成AIが最も手軽に役立つのは、文章の仕事です。総務省の令和6年度調査による、自治体での生成AIの使いみち(多い順)は次のとおりです。
- あいさつ文案の作成
- 議事録の要約
- 企画書案の作成
- メール文案の作成
出典:総務省の令和6年度「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」
上位はどれも、ゼロから書くと時間がかかり、仕上げは職員が判断できる仕事です。広報紙の告知文や、住民向け通知文をやさしい日本語に直す作業にも使えます。
ゼロから書く時間を、AIの下書きを直す時間に置き換えるのがコツです。
会議の録音を文字にするツールは、こちらの記事で比較しています。
③紙の申請書の読み取り(AI-OCR)
AI-OCRは、紙に書かれた文字を読み取ってデータにする技術です。従来のOCRより手書きの文字に強く、RPAと組み合わせると次の流れで処理できます。
- 紙の申請書をスキャンする
- AI-OCRが文字を読み取り、データに変える
- 職員が読み取り結果を確認する
- RPAが業務システムへ自動で入力する
手入力の手間と転記ミスが減り、繁忙期の残業を抑えられます。
オンライン申請が広がっても、紙の書類はすぐにはなくなりません。移行期を支える手段として役立ちます。
④データ分析と政策づくり
AIは、大量のデータから傾向を見つけるのも得意です。根拠をもとに政策を決めるEBPM(証拠に基づく政策立案)に役立ちます。
- 人口の推移から、将来の保育や介護の需要を見込む
- バスの乗降データから、利用の少ない路線を見直す
- 住民アンケートの自由記述を分類し、多い声をつかむ
データで説明できる政策は、議会や住民の理解を得やすくなります。
いきなり高度な分析を目指す必要はありません。手元にある統計の集計から始めましょう。
【事例】AIを活用している自治体を紹介!

「他の自治体はどこまで進んでいるのか」は、庁内で導入を提案するときによく聞かれる点です。
先行事例の進め方は、大きく3つに分かれます。
- 全庁で使い始め、効果を確かめてから本格導入した
- 利用のルールを条例で先に決めてから試した
- 1つの業務で試し、結果を見て導入を見送った
どれも、自分の自治体に置き換えやすい進め方です。庁内説明の材料に使ってください。
横須賀市:生成AIを全庁で導入
神奈川県横須賀市は、全国の自治体で初めてChatGPTの全庁実証に踏み切りました。2023年4月18日に発表し、4月20日に開始しました。
進め方の特徴は次のとおりです。
- 自治体向けのチャット「LoGoチャット」にChatGPTを連携した
- 職員は、ふだんのチャットからそのまま使える
- 個人情報や機密情報は入力しない運用にした
- 文章作成・要約・誤字チェック・アイデア出しに使った
使い慣れた道具に組み込み、新しい操作を覚える負担をなくしたのがポイントです。
実証後のアンケートでは、約8割の職員が「仕事の効率が上がる」「利用を継続したい」と答えました。
市は2023年11月、GPT-4の導入やAI戦略アドバイザーの配置など、本格導入の方針を発表しました。研修などを通じて、他の自治体にもノウハウを提供していきます。
出典:ギズモード・ジャパン、マイナビニュースの報道
神戸市:条例を定めてから本格運用
兵庫県神戸市は、生成AIを使い始める前に、ルールを条例で定めました。生成AIに関する自治体の条例としては、全国初です。
2023年5月24日、市会で「神戸市情報通信技術を用いた行政の推進等に関する条例」の改正が可決されました。改正の中身と、その後の流れは次のとおりです。
- 安全性が確認されていない生成AIに、職務上知った非公開情報を含む指示を入力することを禁止
- 市長が安全性を確認した生成AIは、禁止の対象外
- ルールを決めたうえで、2023年6月23日〜9月22日にAzure OpenAI Serviceで庁内試行
「何を入れてはいけないか」を先に決めておけば、職員は迷わずに使えます。
条例まで作らなくても、要綱や利用指針で同じ線引きはできます。
出典:神戸市の公表資料
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/67721/20231124.pdf
人口の少ない自治体の取り組み
大都市でなくても、AIの取り組みは進んでいます。宮崎県都城市と香川県三豊市の例を表にまとめました。
自治体 取り組み 結果 宮崎県都城市 シフトプラス社と、LGWAN環境で使える生成AI「自治体AI zevo」を共同開発 総務省の事例集に掲載。他の自治体も使えるよう横展開されている 香川県三豊市 松尾研究所と共同で、ごみの分別・収集日の問い合わせに24時間答える生成AIを2023年6月から実証 正答率は94.1%まで上がったが、本格導入は見送った
出典:総務省の事例集(都城市)、ITmediaの報道(三豊市)
LGWANは、自治体どうしを結ぶ行政専用の閉じたネットワークです。都城市は、安全な環境で使える道具を自ら作り、他の市町村に広げました。
三豊市の見送りは、住民に誤った案内をするリスクを重く見た判断でした。正答率が9割を超えても、誤りが住民の不利益につながる業務なら導入しない。
本格導入の前に小さく試したからこそ、この結論を出せました。
青森県内の自治体や企業の事例は、こちらの記事で紹介しています。
https://yoshikazunomori-hachinohe.co.jp/custom_blog/ai-application-examples-in-aomori
生成AIを使う前に決めたい庁内ルール

「ルールがないまま職員に使わせて大丈夫か」という不安は、もっともです。決めずに使い始めると、情報漏えいや誤った情報の発信につながります。
庁内ルールで決めたいのは、次の3つです。
- 個人情報と機密情報の扱い
- 誤った回答への備え
- 著作権の確認
土台にできるのが、総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>」です。
2025年12月の第4版で、生成AIの利用方法・活用事例・リスクと対策が大幅に追加されました。自治体が作る生成AI利用ガイドラインのひな形も、別添されています。
ひな形を自分の自治体に合わせて直すのが近道です。
出典:総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>」第4版
https://www.soumu.go.jp/main_content/001069305.pdf
ルール文面の例は、こちらの記事で紹介しています。企業向けですが、項目の立て方は自治体でも使えます。
ルール①:個人情報と機密情報の扱い
最初に決めたいのは、AIに入力してよい情報の線引きです。一般向けの生成AIサービスでは、入力した内容がサービス側に送られます。
区分 例 扱い 入力しない 住民の氏名・住所・マイナンバー、非公開の会議資料 禁止 条件つきで入力 公開前の広報文案 入力内容が学習に使われない契約のサービスに限る 入力してよい 公開済みの資料、一般的な文章 可
機密性の高い情報を扱うなら、LGWAN上で使える生成AIサービスを選ぶ方法もあります。
行政専用の閉じたネットワークの中で使うため、外部へ情報が出る心配を抑えられます。
ルール②:誤った回答(ハルシネーション)への備え
生成AIは、事実と違う内容をもっともらしく答えることがあります(ハルシネーション)。確認の手順を、ルールに組み込みましょう。
- AIの回答は下書きとして扱う
- 制度名・金額・日付は、必ず元の資料で確かめる
- 外部に出す文書は、作成者以外の職員も目を通す
- AIを使って作った文書かどうかを記録に残す
最終的な責任を負うのはAIではなく職員です。この原則を研修で繰り返し伝えると、確認の習慣が根付きます。
ルール③:著作権と公開文書の注意点
生成AIで作った文章や画像を広報に使うときは、著作権にも注意が必要です。AIの出力が、既存の作品とよく似てしまう場合があります。
- 特定の作家名や作品名を指示に入れない
- 生成した画像が、既存のキャラクターやロゴに似ていないか確かめる
- 文章の一部を検索し、他のサイトと一致しないか確認する
- 利用するサービスの規約で、利用条件を確認する
広報物は、自治体の信用に直結します。少しでも迷ったら、AIの生成物を使わず職員が作り直すのが安全でしょう。
小さな自治体でもできるAI導入の進め方

「予算も、詳しい職員もいない」。そんな自治体でも、AIの導入は進められます。総務省の令和6年度調査では、導入の課題は多い順に次のとおりでした。
- 取り組む人材がいない・足りない
- 生成物の正確性への懸念
- 導入効果がわからない
出典:総務省の令和6年度「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」
どれも、小さな自治体の担当者が日々感じている悩みと重なるはずです。
大切なのは、いきなり全庁に広げないこと。目的を決め、小さく試し、人を育て、財源を探す。この順で段階を踏めば、3つの課題に1つずつ手を打てます。
ステップ①:課題の棚卸しと目的の決定
最初に、AIで何を解決したいのかを決めます。AIを入れること自体が目的になると、効果を測れず続きません。
- 各課で時間がかかっている業務を書き出す
- 業務ごとに、月に何時間かかっているかを見積もる
- 量が多く、手順が決まった業務を候補に選ぶ
- 「議事録の作成時間を半分にする」のように、目標を数字で決める
目標を時間で表しておくと、「導入効果がわからない」という課題にそのまま答えられます。
議会や上司への説明でも、「月に何時間減ったか」は伝わりやすい根拠になります。
ステップ②:小さく試して効果を測る
目的が決まったら、1つの課・1つの業務に絞ってPoC(本格導入前の小さな実験)を行います。
- 期間と対象の業務を区切る
- 導入前の作業時間を記録しておく
- 試行後に、作業時間と職員の感想を比べる
- うまくいかなかった点も残し、次に活かす
正確性が心配なら、職員が必ず確認する下書き作りから試すと安全です。住民に直接答える使い方は、そのあとに検討してみてください。
小さな試行なら、うまくいかなくても損失は小さく済みます。効果が足りなければ、導入を見送るのも立派な結果です。
ステップ③:職員研修と相談先の確保
人材が足りない自治体ほど、一部の詳しい職員に頼るより、全員の底上げが効きます。全職員向けの基礎研修では、次の内容を押さえましょう。
- 生成AIでできること・できないこと
- 入力してはいけない情報
- 回答を確認する手順
- 業務で使える指示文(プロンプト)の例
庁内だけで抱え込まず、外部の相談先を持っておくことも大切です。
AIの技術は変化が速いもの。困ったときに聞ける相手がいれば、試行が途中で止まりにくくなります。
よくある質問:AI導入で使える補助金・交付金は?
AI導入の費用には、国の財源を使える場合があります。代表的だったデジタル田園都市国家構想交付金は、令和7年度から新しい交付金に再編されました。
項目 内容 現在の名称 新しい地方経済・生活環境創生交付金 前身 デジタル田園都市国家構想交付金 デジタル技術を使う取り組みの枠 デジタル実装型(旧デジタル実装タイプを発展させた枠) 申請できる団体 地方公共団体
出典:内閣官房・内閣府の地方創生サイト
財源を探すときは、次の順に動くと漏れが少なくなります。
- 内閣官房・内閣府の地方創生サイトで、公募の情報を確かめる
- 都道府県の担当課に、県独自の補助制度がないか聞く
- 近隣の自治体と共同で取り組めないか検討してみる
要件は年度ごとに変わるため、申請前に最新の公募要領を必ず確認しましょう。
補助金の種類や探し方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
「庁内に相談できる相手がいない」「何から試せばいいか決めきれない」。そう感じたら、外部の力を借りるのが早道です。
株式会社吉和の森は、SEOやSNSから生成AI活用まで幅広く提案し、予算に応じたスモールスタートでプランを組んでいます。まずはお気軽にご相談ください。
まとめ:自治体のAI活用で効率的な運営を実現しよう
自治体のAI活用は、小さく試して確かめながら広げるのが近道です。
- 問い合わせ対応・文書作成・AI-OCR・データ分析で効果が出やすい
- 横須賀市と神戸市は、使い方とルールを決めてから広げた
- 庁内ルールは総務省ガイドブックのひな形を土台にする
- 目的を数字で決め、1業務の試行で効果を測る
まずは庁内で時間がかかっている業務を1つ書き出してみてください。進め方に迷ったら、株式会社吉和の森にお気軽にご相談ください。
株式会社 吉和の森